Tuesday, December 07, 2004

診療費の話

「ちょっと検査とかにお金がかかりすぎるの、血液検査はしなくちゃいけないのかしら。」
マルちゃんはホルモンの病気で2週間ごとに血液中のホルモンを測ったり、薬の影響でどこか調子が悪くなっていないか血液検査をしている。そのうえ、肝臓の薬、心臓の薬、そしてホルモンを作り出す臓器を少しずつ壊す薬を飲ませなければいけない。
「これって、ずっとでしょ?1ヶ月に7万も8万もかかるんじゃ、ちょっとねえ・・・」
薬は治療に必要だから削れないとして、マルちゃんのお母さんは、高額なホルモン検査や血液検査を減らしたいらしい。1回に2万円くらいは検査でかかるのだ。それが月2回は、確かに大きい。
「1ヶ月に1回じゃだめなの?」
過剰な検査をしているつもりはまったくない、本当に必要なときに必要な検査をしているのだ。その最低ラインが2週間。おまけに、院長に叱られるの覚悟で1カプセル2000円の薬をその料金で出しちゃってるのだ。
実はこの間の日曜日、映画を見に行こうと準備をしていたときに病院から電話が入った。同僚の先生からだ。「先生、マルちゃんが下痢していて食欲も落ちているらしいんです」・・・・ああ、薬の副作用かもしれない。ホルモン治療の薬の減量とホルモン剤の補充を指示して、自宅での様子によって薬を帰ることを伝えてもらう。「血液検査、します?」・・・本院の院長的にはここは血液検査、と言うのだろう。しかし、マルちゃんの病気の状態は通常の検査ではわからない。高額なホルモン検査をするのか?
ここで、知識と経験にフル稼働してもらう。この病気で一番大切なのは臨床症状だと、アメリカの内分泌の権威Dr.フェルドマンも言っていた。
「血液検査はいいです。食欲がなかったらすぐ来るように言ってください」理論に基づく、ある意味ぎりぎりの判断である。マルちゃんの内科療法はなかなか安定しない。
そんなマルちゃんの、検査をこれ以上減らすのは、さすがに知識があろうと理論があろうと、危険だ。若い獣医は検査が多いと批判する向きもあるが、推測だけで治療をするほうがよっぽどこわい。理論に基づく検査は絶対必要だ。かといって、このまま高額な治療と検査を続けるのは難しいだろう。
「検査をこれ以上減らすのは無理なので、治療費の方を本院の院長に相談してみましょう。」とお母さんにこたえる。
みなさんご存知のとおり、動物病院の診療費は全国一律ではない。高い病院もあれば安い病院もある。高い病院のほうが設備が整って安全かといえば中身(獣医の頭)が伴ってなかったり、安いけどやることも前時代的、という病院もある。日常の診療をして飼い主さんに払っていただく診療費の基準も、だいたい病院の中で目安はあるし、検査費用も一覧表がある。原価がすごく安いものももちろんあるのだが、だからといって診療費が即安くなるとも限らない。そこには人件費もあるし、病院の運営にかかわるお金も必要だし、何より、私たち獣医師が売りにするのは薬ではなく、その薬を使うための知識や経験なのだから、そう簡単に安売りもできないのだ。自分の知識を安売りしてはいけない、プロだから。
そうすると、薬代と検査費用を長期にわたる疾患ということで特別に価格変更するしかない。やみくもに安くしてくださいと院長に頼むのも無茶な話なので、どれくらい値段をおさえると利益がこれくらいで、今後この検査はこれくらいやっていく予定で、といったことまで自分で計算して納得させなければいけない。このへんが、若い先生と違うところだなーと自分でも思う。中間管理職か?
必要以上に診療費をもらうこともないが、最低限の診療費をもらわなければ、病院はなりたっていかない。すべての患者さんの診療費を安くしてあげることも多分できない。獣医療に携わっていることは幸せだが、お金のことを考えると頭が重い。こんなんで、果たしていつか開業できるのか、またまた不安がよぎる・・・・・。

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