Tuesday, July 19, 2005

ハードな1週間・気分は満足?

先週は久々に過酷な1週間であった。通常なら休日となる日曜日を、大阪での学会で忙しく過ごしてしまったので、2週間休みなし状態なのだ。そのうえ、月曜日は仕事のあとで川口の動物病院で開かれた勉強会に参加して帰宅したら午前3時、タクシーに混じってバイクで走っていたら夜中の環七で曲がり角を間違えそうになった。
そして、水曜日にはなんと、われらがボスの愛するももちゃん(マルチーズ13歳)の肝臓切除の手術が入っていた。ももちゃんは、心臓も悪い。循環器科の有名な先生が心臓にエコーをあてて「かなり悪いな」と驚愕の声をあげ、「手術中に不整脈が出たらすぐにやめないと死ぬぞ」と警告したくらい、悪い。そして切り取る肝臓は、切除困難と言われている右側だ。リスクは天井知らず、腫瘍科全体にも緊迫感がみなぎる。手術に入るメンバーもゴールデンメンバーとかドリームチームといわれる経験豊富な先輩ばかりだ。しかし、何故かそこに私の名が・・・・。ボスのご指名で特別編成されたチームだから、名誉なことこの上ないのだが、選択基準は?とたずねたら「術野を邪魔しない、指の細い人」と言われた。なーんだ、と思ったのは一瞬のこと、実は同期には私より指の細い人も同じくらいの人もいるのだ。おまけに、私のポジションでは指の太さは関係ない。もしかしたら、仕事振りを期待されているのかも、ひよっこな私の実力を認めてくれているのかも、などなど、おだてられた子豚よろしく、胸がドキドキしてしまう私。
大先輩ばかりのチームだから、手術前のいろいろな準備が私一人の仕事になる。この日は年に1度の外科手術練習という、自分たちにもメスを握るチャンスが回ってくるのだが、当然そんなことをしている余裕はない。あちこち走り回りながら、ドリームチーム見習いは大忙しだ。この大仕事、緊張やプレッシャーを感じないでもないのだが、そんなものにひるんでミスを生み出すわけにはいかない。多分私の心臓は毛が生えている。プレッシャーが自分の力を引き出してくれるような気がする。まあ、多分勘違いかも知れないけど。
手術はボスの執刀、ドリームチームの助手陣、そして周囲に研修医があふれ、手術室は誰一人私語を口にしない。ボスの手術はものすごくスピードが速い。決して雑ではなく、ひとつひとつの動作に無駄がなく早いのだ。昨年出版された「小動物腫瘍外科」というDVDつきの本を購入した獣医師からは「動画を早送りしないでほしい、普通の速さの手術が見たい」とクレームがつき、編集者が困っていた。あれがナチュラルなスピードだとは、普通の人には思えない。そして今日は、できるだけ麻酔時間を短くするために、ボスのギアは最初からトップに入っている。
こんなときに糸を出すタイミングが少し遅れても「バカヤロウ!!」と怒鳴られてしまう。そう、こんなリスクの高い手術で1秒でも無駄な時間を作るのは、バカヤロウなのだ。反論なし。
ちなみに同様の肝臓の右側の切除手術で、アメリカの有名な先生は5頭中2頭、手術中に血管を傷つけて死亡させている。数は少ないけれど、術中死40%という数字が導き出される。大胆で繊細なボスの動きに、助手がついていけなければ、やはり難しい。執刀医と助手の息が合って初めてトップギアのボスのメスさばきが生きるのだ。そして、私のポジションは器具係といって、次に使われる器具を出していく、それだけかと言われちゃうとそうなのだが、これもトップギアのボスのスピードについていくのは並大抵のことではない。ここでこうして器具を出すのも、大切なポジションだし、同期のイワサキは私の器具係はピカイチだと言ってくれる。ああ、日頃の小さな努力って報われるのだな。それでも、何度か怒鳴られた。ああ、まだまだだ。でも、今日のボスはいつも以上に神経がぴりぴりしている。
自分の飼っている動物を手術した経験は、実はハックの去勢手術だけだ。それも、まだハックを飼うことになる前だから、厳密にいえば自分の犬ではなかった。初めて勤めた病院で初めてやった犬の去勢手術がハックだった。自分の動物を手術するというのは、どんな気持ちになるのだろう。私も冷静にメスを動かせるだろうか?

手術は1時間ほどで終了、手術中血圧と心拍数が落ちてひやりとする場面もあったが、なんとか切り抜けた。麻酔から目を覚ましたももちゃんを、ボスが自ら抱き上げて入院室へと移動していく。普段は見られない光景だ。
腹腔内の大きな腫瘤を摘出した後怖いのは、出血、イレウス(腸重積)、そして、ももちゃんは痛がったり苦しがったりするととたんに心臓に負担がかかる。痛みのコントロールはいつも以上に厳重で、手術後モルヒネをうってもらう。そして、モルヒネと同類のシップのような形になっている痛み止めも処方され、毛を刈った皮膚に貼り付けてもらう。1時間ごとに尿量や心拍数、呼吸の状態をチェックするのも、私の役目だ。ボスは9時くらいまで様子を見て異常がなければ、それで今夜はおしまいでよいと言っていたけれど、あれこれ仕事をしていると10時11時と時間はたつものだ。その頃になって、私がまったく外科実習に参加できてなかったことに気づいてくれた先輩が、あおるようにして私を呼びつけて(?)自分の外科実習を始めたけれど、もしここで呼ばれなかったら私は今年の外科実習はまったく参加できなかったに違いない。終電に間に合わなくなりそうな先輩は、縫合を私に任せて帰っていった。そのあと、小さな手術を二つばかりして、また入院室に戻った。
しかし、その後、自分が面倒を見なければならない今年の新人の、学会発表の演題のことで話をしていたら、結局3時半になった。さすがにまぶたを開けていられなくなり、研修医室の隅っこで折りたたみイスを3つ並べて横になる。体力なくなったなあ、死にそうに眠い。

体が痛くて5時50分頃目が覚めた。起き上がりそのまま入院室に行ってももちゃんの部屋を覗き込む。小さな小さな寝息を立てながら、とても大手術の後とは思えないほどよく眠っている。心拍も異常なし。おしっこも出ているから、腎臓もちゃんと働いている。7時すぎて誰かきたら、すぐにレントゲンを撮れるように1階の現像室に行き、自動現像機のスイッチを入れる。こいつが温まってくれないと、朝一番のレントゲンが朝のラウンドに間に合わない。血液検査の機械もスイッチ入れとこう。
そんなこんなで、ばたばたと過ごし、なんとか昼休みにももちゃんは自宅へと帰って行った。ボスと一緒にももちゃんを送り届けた同期の獣医から「はい、ひびちゃん、これおとうさん(ボス)から」と渡されたのは、大きくて立派なメロン!!ボスの気持ちだそうです。ありがとうございます。ひびは、やっとほっとしましたー。

あー、しんどい一週間だった。週が明けて、やっと疲れがとれるくらい、体力的・精神的にぎりぎりの一週間でした。

0 Comments:

Post a Comment

<< Home