Monday, June 06, 2005

ハルちゃんと「めで鯛パン」

先週必死になって書いていた抄録は、最低3回の赤ペン添削を覚悟していたにもかかわらず、一度でOKが出てしまった。昨年、先輩と一緒に雁首そろえて何度も足を運んだのが嘘のようである。ここまでくると、拍子抜け以外の何者でもない。そうはいっても、まだ参考文献だとか共同演者とか細かい直しが必要なのであるが、締め切りは15日、余裕かまして油断しそうで怖い。それでも抄録のOKさえ出てしまえば心は軽やか、空は青空。つかの間ではあるが、無敵な気分だ。つくづく脳天気?
今日、ゴールデンレトリバーのハルちゃんのお母さんがご挨拶に見えた。ハルちゃんは白血病になってしまい、お父さんがネットで専門医を探し出して、海に近いその病院で治療を受けている。(その専門医も腫瘍科の先輩だけど。)最近抗がん治療が一時休止となったため、そのお祝いで鯛をかたどったパンを手作りされ、「めでたい」のおすそわけをしてくださったのだ。数日前、爪切りと足の裏のバリカンかけに来たハルちゃんのお母さんは次の私の出勤日を確認されていたらしい。実を言うと、私がハルちゃんの治療にあたったのはほんの数回しかない。ハルちゃんの歯が欠けてしまい、初めは病院で治療を希望されていたのだが、歯の欠けた部分が大きく、そのままにしておくと歯髄炎になりかねないと判断した私が大学病院の歯科を受診するようにすすめ、予約をとった、だいたいそれくらいのものであったはずだ。
ハルちゃんのお母さんが見えたとき、スタッフが声をかけてくれたので受付まで出てみると、ハルちゃんのお母さんはハルちゃんとよく似た優しい笑顔でそこに立っていた。ハルちゃんの様子を先輩に会うたびに聞いていたので、経過良好ということは私も知っていた。ハルちゃんは食欲もあって元気で、ちょっと顔の毛が薄くなってしまったけれど、ちょっと見る分には白血病なんて大病を患っているようには見えないそうだ。主治医である先輩も「調子がいいね」と話しているそうだが、お母さんはどうしても不安でたまらないらしい。
白血病は確かに大病だろう。私の可愛がっているテリー君のリンパ腫だって大病だ。どちらもいずれは死に至る病だ。でも、この病気のちょっとラッキーなところは、比較的抗がん剤に対する反応がよく(たまに抗がん剤の効きが悪いのもある)、よりよい時間を少しでも長く過ごせる可能性があるところだ。現に、今日会ったテリー君は昨年7月にリンパ腫と診断されてから抗がん剤の治療をしているけれど、副作用もなく、発病した当時より5キロも太り、ご飯もよく食べほとんど日常生活に問題はない。ただ毎週病院に通わなくてはならないけれど、待合室でも誰にもリンパ腫だなんて気づかれない。元気よく尻尾をふりふり診察室から出てくるので、「何の病気ですか」と誰かに聞かれてお姉さんが恥ずかしそうに「リンパ腫なんです」と答えている。
死なない犬はいない。死なない猫もいない。生まれた命はいつか死ぬ。それならば、1日1日が少しでもよい1日になるように、私はそう思う。朝のごはんは美味しかったですか?どこか痛いところはないですか?夜はちゃんと眠れていますか?自分を思い出してくれる友達はいますか?人も犬も同じだ。がんになって可哀想、と思うかもしれない。でも、犬にとって「がん」だという意識はあまりないだろう。ご飯が食べられないとか、動くとしんどいとか、痛くて眠れないとか、そっちのほうが「がん」だということよりも、犬にとっては重要なことだ。だから、リンパ腫や白血病のような、大病を患った犬にとっては、治らない病気の行く末を案じて飼い主が暗い顔をしているよりも、1日1日が幸せに暮らせるのが一番だと思う。ごはんが美味しい、痛くない、寂しくない。
ハルちゃんのお母さんは、抗がん剤は一時休止となってもいつか再燃(さいねん、と読みます。また病気がぶり返すこと)するのは確実ですと、主治医から言われているので、経過良好と言われても信じられないらしい。ハルちゃんは白血病にかかってしまったけれど、いい主治医の先生にめぐり合えて、抗がん剤もよく効いて、それが休止できるくらいまでこられて、よかったですねって言ったら「本当にそう思いますか?」とお母さんの顔がちょっと明るくなった。そうですよ、ごはんも美味しく食べているでしょう?ちょっとお顔の毛が抜けてしまったけれど、今は痛いところもないでしょう?長期入院もしないし、相手は白血病ですからね、こんなに状態がいいのはすごいことですよ。そう返したら「やっぱり、そうなんですか、よかった」と言ってお母さんは帰って行った。頑張ってください、ハルちゃんのお母さん。犬もつらいけど、そばで支えている人間も相当つらい。
それを見守る獣医師も、病気の結末を知っているだけに、実は結構つらいのだが医者が泣きべそかいたら話にならないから、絶対最後まで泣かない。ドラマで泣いちゃう私には結構至難の業だ。

今日もご飯は美味しいか?今日も痛いところはないか?今日も誰かと笑いながら話をしたか?単細胞の私の幸せの基準は、本当に単純だ。もしも、嫌なことがあったら、おいしいお茶を入れてみんなで休憩しちゃおう。そういえば、この間ウィンザーホテルのカフェで朝ごはん食べましたね。ソイ12のcrepes & companyも犬連れで行きましたね。でもトンローのスターバックスは暑かった。母を連れて行った香港のビクトリアピークのカフェが、ちょっと素敵だったことに母がすごく感動したっけ。
明日もごはんが美味しい1日でありますように。明日は大田区、フィラリア予防はそろそろ終盤?

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