Saturday, May 21, 2005

大田区は動物病院の激戦区だ。私が仕事をしている病院の周囲、半径およそ3kmには、この3年間だけで6,7件の病院が開業している。そういうわけで年々狂犬病予防接種の届出代行数も減少、それ以外の来院件数も減少しても不思議はない。
しかし、今日の忙しさといったら、午前中だけで20件も診療をしている。2時間半の間に獣医師2人で20件というのが多いか少ないか。平均15分で1件ということになるが、診療が15分で終わるということはめったにない。もっと早いかもっと長いかだ。血液検査が必要になるようなものは飼い主の話を聞いて採血から検査終了までおよそ20分、その説明をするのに5分はかかる。そこに病気の説明や今後の治療について話し始めると30分などあっという間なのだ。時間がかかると言われようと、そう簡単に済ませるわけにはいかない。血液検査の結果からついた診断を治療に結びつけるのは、一見簡単そうで難しい。その重要さを理解してもらえなければお金のかかる治療としか、思ってもらえないことも実際少なくないからだ。人間だったらお医者さんの言うことはみんな聞くのにね。このへんを飼い主に納得してもらい治療に移行できる、というのが知識や技術に並ぶ獣医師のひとつの能力だ。
とにかく話を聞きだすこと。そこに診断のヒントが隠されているし、治療に移行できない障害の解決の糸口がある。入院させたくないから、腫瘍の手術は受けさせたくないと言われても、手術を受けなかったらどうなるか、入院を最短にさせるにはどうするか、ひとつひとつ例をあげたりしながら話を組み立て説明をしていく。やっぱり15分どころではない。
飼い主さんを待たせてしまう時間も長くなるけれど、きちんと説明することは私たちのポリシーとして崩せない。そんなわけで2時間半しゃべりっぱなし、この季節でものど飴が手放せないし、せっかくいれたお茶が冷めても我慢して喉を潤す。

今日はウサギさんが2件来た。獣医師は獣医師法によりほとんどの動物を診療してもよいことになっているが、大学で学ぶのは牛馬豚山羊と犬猫に関する基本的な病気だけで、ウサギやらハムスターに関しては自ら学ばなければならない。犬猫に関してだって、学生時代に習ったことはほんのわずかだ。私の知る年配の先生は、そういう教育体制だから、日本にはヤブ獣医が多いと言ってはばからない。
私は以前勤めていた病院で同僚だった同じ年のエキゾチック動物専門の先生からいろいろ学んだ。彼女がやること、話すことを頭に叩き込み、本を読み、わからないことを彼女に聞いた。ウサギやフェレットからの採血も彼女がやることを真似して覚えた。ウサギは犬猫とは随分違う動物だし、何より恐怖に耐え切れず自ら呼吸を止めてしまうほどデリケートだ。じたばた暴れて自分自身の足腰の強さがあだとなり腰を痛めて歩けなくなってしまう。小学校で飼育されているのが不思議なくらい、実は繊細でか弱い動物なのである。そんなわけで、ウサギさんのときはいつも以上に慎重に診療を行う。
何がまずいって言ったら、病院に行ったら病院に行く前よりも悪い状態になることだ。だから、具合悪くて病院に行ったのに、病院での扱いが悪くて立てなくなったなんてことは絶対にあってはならない。
気を使い、時間をかけ、慎重に慎重に。かくして、やっぱり診療は時間がかかるのである。

明日は今日診察した具合の悪いウサギさんの治療のために朝一番で職場に行こう。それから、大学に行って学会発表の準備をしなくちゃ。休めないな、やっぱり。

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