Tuesday, April 12, 2005

インスリン10倍事件

昨日雨降りの愛川町は、いつもどおりのケンちゃんとテリー君のリンパ腫の治療と、そして糖尿病のプーちゃんの新しいインスリンを使っての1日がかりの血液検査だった。
獣医療の現場では糖尿病の治療の人間のインスリンを使っている。昔々、私がまだ大学を出たばかりの頃にあったインスリン製剤は、その後新しい技術の躍進と狂牛病などの問題から姿を消していき、そしてさらに、小動物でも使いやすいサイズのインスリンは人間ではあまり使われないのでそれもまた姿を消し、残っているのは、小型犬や猫では使いにくいインスリンとなり、また猫で使われることも多かった長時間作用するインスリンはこの4月までに市場から消えた。そんなわけで、きっちりと糖尿病を管理しようとすると、猫では1日3回のインスリン注射が必要となるケースもあり、なかなか飼い主の負担も大きくなってしまうのだ。
そこに、近年登場したインスリンの類似物質である「ランタス」という薬は人間では超長時間型のインスリンと言われ、1日1回の注射で済むらしい。そのうえ、今までのインスリンのようにはっきりとした「ピーク」と呼ばれる最も作用の強い時間帯というのがないため、急激な低血糖もおこしにくい。これを獣医領域の先生方がほうっておくわけもなく、いろんな学会やセミナーではこのインスリン製剤に関するトピックや症例報告を目にすることが多くなった。私もここ最近、大田区の方で使い始めたのであるが、これがなかなか感触がよく、安心して使えるという印象があった。
そこで、プーちゃんも昨日の朝ランタスを飼い主のお姉さんの前で説明をしながら注射をして、そのまま1日預かっての2時間おきの採血と血糖値のチェックである。「これは、薄めたりすることができないので、この特殊な注射器で1.8目盛りです。ほんのちょっとなので大変ですが、頑張ってください。」
そして、昨日の夜9時過ぎにプーちゃんのお迎えに来たお姉さんに注意書きや今後の通院予定をパソコンで作成したものを手渡した。FIV(猫免疫不全ウィルス)にも感染しているプーちゃんには免疫を高めるために猫用のインターフェロンを週1回注射することにしてあり、腎臓も少し悪いせいもあって貧血があるので造血ホルモンの注射も週3回うつことになっている。そして来週の月曜日、また私がチェックをして問題がなければ、ランタスを続けていく予定になっていた。これでまたしばらく、平穏な日々を送れるだろう。

ところが、である。昨日の夜、プーちゃんのお迎えを待っている間に入った急患の猫の容態を問い合わせたメールの返事に、意外にもプーちゃんのことが書いてある。「夜中に低血糖を起こしたそうです。」えー、そんな、あり得ない!!
最後の検査で少し高めの血糖値を示したので効果が数時間しかない短時間作用型のインスリンを少量入れはしたが、そんな低血糖をおこすような量ではないのは、今までの検査の結果から明らかであり、ランタスの作用を考えても低血糖をおこすようなギリギリの使い方を私は指示した覚えはない。もし私が指示したとおりに注射して本当に低血糖をおこしてしまったのならば、逆にプーちゃんは糖尿病ではない状態にあったと考えられる。なんにしても、心配だ。
その後、5時過ぎにメールが入り、プーちゃんが来院し血糖値が25mg/dlだという。通常血糖値は80~120mg/dlくらいに維持されるようになっており、そのくらいの低血糖だとぐったりしてしまっているはずだ。案の定、プーちゃんは頭も上げないらしい。今日は頼れるキムが愛川町に入っている。あれこれ、考えられることをメールで説明し、今後のことを検討する。とにかく、そんな低血糖をおこすようなランタスの量ではないはずなのだ。おかしい。振り出しに戻るのだろうか。
そして、その後真相が判明した。昨日の夜と今日の朝、飼い主のお姉さんが「1.8」と「18」を間違えて注射していたのだ。10倍の量のインスリンが入ったら、こんな低血糖で死にかけるのも当たり前である!!おそらく、今までのインスリンは希釈したものだったので、1回に注射するときに「20目盛り」とか「30目盛り」とか指示を出していた。それでいつもの習慣で18目盛りをすってしまったのかもしれないが・・・・。私は2回以上説明したはずである。朝は目の前でこんなに少ないのだというのを見せてもいる。なぜ間違ってしまったのか。その答えは、おそらく明日、大学の腫瘍科でキムに会った時に聞くことができるだろう。
プーちゃんは夜10時ころ、血糖値が70まであがったそうだ。なんにしても、生きていてくれてよかった。

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