Thursday, May 05, 2005

動物病院のG.W

今年のゴールデンウィークは長い人で11連休がとれるという、盆暮れをしのぐ大型連休である。それがどうした、私が勤務する2つの動物病院はどちらも連休中に休みはない。そのうえ私は祝日も有給も関係ない、アルバイト獣医師である。
思えば、大学卒業以来5つの病院に勤務した経験を持つが、そのどれもが祝日も診療をしていた。どこの動物病院もそういうわけではないのに、不思議なものである。
1年中暑いバンコクとは違い、東京あたりではこれくらいの時期からフィラリアの予防を始めるし狂犬病の予防注射の来院件数も多い。日本では狂犬病予防法があるので四月になると役所から狂犬病予防注射のハガキが届き、近所の公園や公民館での集合注射に行くか、かかりつけの病院でうってもらうかということになる。健康な犬を何度も動物病院に連れて行くのはオーナーにとっても手間がかかるため、たいていが狂犬病とフィラリアを一緒に、ということになる。そんなわけで、ちょうどゴールデンウィークというのは動物病院へ行く、絶好の時期となってしまうのだ。
普段動物病院に来ない犬が、動物病院に来るとどうなるか。注射と採血で2回も針を見る。飼い主にしてもなれない動物病院で緊張するのか、言葉少なくなってしまう。診察室はしんと静まり、犬は突然不安になり吠えたり診察台から逃げようとしたり、次第にパニックの様相を帯びてくる。頼りの飼い主は押し黙るか犬を叱るかで、さらに犬が不安になってくる。人間が血を見る前に、手早く済ませなくてはならない。しかし相手は年に1度、来るか来ないかの動物だから念入りに問診をしなければならない。犬の吠える声と叱責する飼い主の声に負けじと問診を続ける、こちらも結構必死である。先日はフィラリア予防の前の血液検査に来た犬から採血をしようとした新卒獣医師が、飛び上がった犬に唇をかまれて3箇所穴があいたと後日報告を受けた。唇の傷からボタボタと血がしたたり落ちてなかなか止まらなかったそうだ。仕事がら咬まれたり引っかかれたりは覚悟のうえだが、この時期は特にそういう怪我が出やすい。
普段から病院に通っている犬は、血液検査や診察も多いので病気のサインは見つけやすい。しかし年に1回来るか来ないかの犬では、病気は見逃されていることが多い。水を飲む量やおしっこの回数や量が増えていたり、食欲がものすごくあるのに体重がすごく減っていたり。それらを飼い主は「最近暑くて水をたくさん飲む」「年を取ってきたから太らなくなった」というふうに結論付けていたりする。そのうえ、皮膚にできた腫瘍も何ヶ月もほったらかしなので、表面から血が出ていたり大きくなりすぎて皮膚からぶら下がっていたりする。狂犬病予防注射で動物病院に来るときまで温存されていた腫瘍というのも恐ろしいものである。結局そんな場合は予防注射どころではない。腫瘍が肺にまで転移して余命数ヶ月という犬に狂犬病予防接種をうつことはできない。見た目が元気であっても、体は確実に蝕まれているのだから、受付に狂犬病予防注射の猶予書を書いてもらい保健所に提出だ。
かくして、ただでさえ普段より来院件数に加え重症症例も少なくないので、診療に時間がかかるのは言うまでもない。ついでに言うと、金曜日は獣医師が私と新卒の獣医師なので、おのずと高齢の犬や重症なものは私の出番となり、午前3時間、午後3時間、しゃべりっぱなしである。カラカラの喉を冷めたお茶で潤す私に「先生、売れっ子だからー」とスタッフがからかいながら、容赦なくカルテを重ねていく。

ちょっとフィラリアの話。バンコクでは年間を通して予防をしているフィラリアであるが、日本では気温によって予防する期間と予防を休む期間とにわかれている。今年はようやく日本でもレボリューションが発売となったが、まだあまり一般的でないのか、問い合わせすらない。猫のフィラリア予防がまだ浸透していないせいもあるのだろうが、もったいない。今までのフロントラインと同様に使うだけでノミとお腹の虫とフィラリアの予防ができてしまうのだ。お出かけの機会の多い?猫ちゃんにはうってつけだと思う。
ところで、最近ノバルティスという薬品会社から「フィラリアは年間を通じて予防すべき」というレポートが出たらしい。まだ詳細が手に入らないのでコメントも難しいが、フィラリア予防は時代によって少しずつ変わってくる。治療もまたしかり。
首都圏の若い獣医師の中には、フィラリアに感染している犬を診た事がないという人が多い。それだけ都会周辺での予防率があがりフィラリア感染率が低くなったということなのだが、そういう若い人たちが自分の故郷に帰って開業しようとすると、ちょっと大変だ。見たことのないフィラリアの予防方法は知っていても治療をしたことがないから。私にしたって、フィラリアのつり出しという首の血管から心臓の近くまで細長い鉗子をいれて虫をつかんで取ってくる手術を見たことはない。私が獣医師になって2年目くらいにフィラリア駆除薬の安全性の高いものが出たので、フィラリアの駆除といえばまず注射なのだ。おまけに予防率の高さゆえ感染した犬にお目にかかることなどめったにない。しかし、地方ではまだまだ外科手術の必要な重症症例も少なくないので、地方で開業するならばその技術が必要となる。しかし東京周辺ではそんな手術など必要ないので見ることができない。彼らはどこかでその技術を習得しなければならないし、感染した犬の状態を勉強する必要があるのだ。
なんてことを考えていたら茨城で開業した友人が、大忙しのゴールデンウィーク中にその手術をしなければならず、時間がなくて夜中にやったとメールが来た。誰か田舎で開業するという後輩には、その病院を紹介しようとこっそり思う私である。

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