Sunday, April 09, 2006

新人育成週間

4月の第2週を迎えたというのに、狂犬病予防注射で来院する犬がものすごく少ない。そこそこの売り上げはあっても、4月の土曜日にこれでは気が重い。病院は閑古鳥が鳴いている。動物病院というのは普通は春夏が忙しくて冬になるとわりと、暇。だから冬からずっと暇が続いているのだが、これが自分の病院だったら気が狂っちゃうかもしれないなー。
春が来るたびに自分の臨床経験年数が増えていく。もう卒業してから14年目を迎えることになる。臨床獣医師(実際に診療をしている獣医師)全体から見たら、女性獣医師で10年を超える臨床経験をもつ人はまだ少数派だといわれる。それを考えると、立派なベテランでありお局さまであろう。新卒の先生から見たら、泣く子も黙る日比先生といったところか?昨年干支が一緒の獣医師が入ったことで、自分が年をとったのだとやっと自覚した。ただ診療をするだけでなく、指導育成する側へといつの間にか回っているのだ。
まるっきりの新人と二人になった金曜日は、診療の合間に診療をしていく指針となる「POMR(問題指向性メディカルレコード)」についてを簡単に説明し、4月に特に外来数の多い狂犬病予防注射についてとフィラリア予防についてを説明した。狂犬病もフィラリア症も大学ですでに学び、国家試験でも出題される重要な疾患であるが、大学で得た知識はほんの少しの部分でしかない。臨床で大事なのは狂犬病予防法という法律に基づいた狂犬病予防であり、狂犬病の症状がどうとかいうことは長い間狂犬病の発生がない日本では二の次だ。生後何日から接種しなければならないのか、ほかのワクチンと同時接種をしてもよいか、フィラリア予防薬はなぜ冬の間飲まなくてよいのか。臨床というのは毎日が口頭試問のようなもので、その場で飼い主の質問に答えなければならないし、じっくり考えて解答用紙に記入するようなものではない。たとえ用意されて答えであっても「コミュニケーション」をとるというのが、大学の勉強との大きな違いだろう。4月の時点では新人の獣医師よりも受付の女の子のほうがよっぽど現場の即戦力であり臨床的である。新人の獣医師は国家免許をもっている自分のほうが役立たずであることに一種のカルチャーショックすら受けたりもする。

ところでこの新人の先生は私が所属する大学出身であり、直接顔を合わせることはなかったが腫瘍科によく出入りしていた学生と同級生で同じ研究室であったことが判明。知り合いの友達、業界は狭いから困る。学生に接する私と新人獣医師に接する私は、多分違うんだよね。学生は親にお金を出してもらって勉強しているけど、新人獣医師は飼い主からお代をいただいて診療するいわばプロだ。だから、多分ちょっと厳しい。もうここは土俵の上だからね。
新人を育てるために厳しくならざるをえないのは、病院を信頼して来てくれる飼い主さんのためでもあり、5年後10年後、臨床を支えていく獣医師を育てるためなのだ。と、信じている。いつか新人の先生たちもこの病院を出ていくだろう。そのとき、大学を出て最初の数年間に得たものが彼らの今後の基本となっていくのであれば、接する私の責任もちょっとある。基本的に勉強なんて自分自身でするものだから、その人ができないのはその人の責任だ。でもそれでは一緒に仕事をするうえでも困るし、少しでもできたほうが物事は楽しい。
うちの可愛いレイコちゃん(獣医師)みたいに、ほっといても自分でどんどん勉強してわからないときだけ質問してくるようなタイプは先輩としても楽だけど、中には獣医師免許をとったことで満足してしまうのか、臨床に出た途端毎日楽しく暮らすだけで勉強もしないやつもいる。お尻を叩かれなければやらない人だっているし、いくら勉強するしないは本人次第と言ったって、患者さんに対してそんな不勉強なやつに適当なことを言われたら一緒に仕事しているこちらもたまらない。だからといって私一人で診療するわけにもいかない。育てないわけにはいかない、というのも若干あるかな。

新人獣医師だけでなく、新しいスタッフもいつのまにか入っていた。トリマー、21歳、なんと男の子。女の園の病院に若い、というか私から見たら助手のお友達のようなスタッフが入った。彼には仕事以前にビジネストーキングというものを教えてあげなければいけなさそう。楽しく仕事をしたいのはわかるけどね、新入りくん。次に「イエース」とか答えたらレントゲン室呼び出しを覚悟したまえ。

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