Wednesday, May 10, 2006

ハチちゃん その2

お花とボンビアン(注:武蔵新田で美味しいと評判のケーキ屋さん)のシュークリームを持ってハチちゃんに会ってきた。
リビングに横たわったハチちゃんの枕元にはお花やお菓子などが供えられていたけれど、それがなかったら静かにお昼寝をしているかのような、綺麗な顔をしていた。ハチちゃんの腫瘍は奥歯の上のほうなので、進行すれば顔の変形が起きたかもしれないのに、不思議なくらい、男前なハチちゃんのままだった。冷静を装っていたのだけれど、思わず涙がこぼれてしまった。
「どうして死んじゃったのかしらって、思うくらいなんですよね。」とお母さんが言っていた。前の日の夕方まで何一つ変わらない日常だった。食欲も、お散歩も、いつもと同じだったし、死が忍び寄っているとは思えないくらい、元気で毛艶もよく、思いもかけない出来事だったのだ。
ハチちゃんの枕元に供えられていたのは、マーガリンを塗った食パン、カップに半分くらいの牛乳、ジャンボシュークリーム、カステラ、りんご・・・どれも、私が初めてハチちゃんに会った日に診察室でメモに書きとめ、健康のために控えましょうね、といったものばかりだった。ハチちゃんは、私が指示したとおりにそれらのものを口にしないように自ら食事の時間にはベランダに出るようになったのだという。
ハチちゃんに会いに行く前に、住所の確認をしようとして広げたカルテを見てちょっと驚いた。ハチちゃんと初めて会ったのは、2004年の5月8日だった。きっかり2年たった5月8日にハチちゃんは天に召されたのだ。それは偶然かもしれないけど、何かの縁とかそういうものだったのかもしれない。
がんに克つことはできなかったけれど、ハチちゃんとの時間は楽しかった。ハチちゃんは最初は病院嫌いで診察室でも逃げ出すことばかり考えていたみたいだけど、この数ヶ月間は病院でも大学でも、私のそばから逃げ出そうともせず、血液検査もレントゲンも点滴も、本当にお利口さんだった。点滴の針をはずすときだって、私一人でテープを巻くところまでできた。私の顔のすぐ近くにハチくんの顔があって、なんだかハックみたいだなあ、と思った。
天国で、思い切り走って好きなだけ美味しいものを食べて、そして、虹の架け橋の近くで私を見かけたら、顔を見せてね。

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