Monday, March 20, 2006

新しい翼

今年の腫瘍認定医試験の合格発表は日本獣医がん研究会のホームページに合格者受験番号が掲載されるというもので、名前がなければ誰が合格したのかもわからない。興奮しながらもただ自分の番号06-11だけはしっかり確認して、夜中にもかかわらず合格者受験番号を「アネゴ塾」受講者に送信した。おせっかいといえばおせっかい。
この1年間、自分の背中に「バカ」と書かれたような心境で過ごしてきた。実力はある、と言われても本当に実力があれば試験だって合格するはずだと思うから、苦い気持ちをいつもかかえながら、診療チームの藩長も辞退してきた。短く切った髪を鏡で見ては悔しくて涙がにじんだ。
まさか40近くなって試験を受けたり落ちたり受かったりするとは思わなかったし、落ちてこんなに悔しい思いをするとも思わなかった。落ちてしまったのはもっと勉強しなさいという神様?のお告げなのだろう。
昼を過ぎてようやく喜びがじわじわとわいてきた。私の翼はまだまだ飛べるはずだ。今日はテリー君が血液検査にやってきた。リンパ腫はなりを潜め発症から1年8ヶ月生存中で大変良好。明日はハチくんが大田区で抗ガン剤治療予定。先週は他大学で診断を受けた末期症例(すでに死亡)の飼い主さんがほかの飼い主さんを紹介して田園調布からやってきた。
腫瘍診療だけでごはんを食べられるほどの名医にはなれないかもしれないけど、せめて自分のところに来てくれた動物と飼い主さんたちの、少しでも役に立てれば、私を応援してくれる人たちの気持ちに報いることもできるだろうか。

ところで、仕事ではバリバリやっている私にも克服できないものがある。それは何かというと・・・
先週の木曜日、助手が小学校で掃除の時間に掃除用具の金具で右手の人差し指の肉をそぐように切ってしまい、病院で3針も縫う怪我をした。もうそれを聞いただけで気持ち悪くなってしまうのである。
もう10年以上も獣医師をしてきて大量の出血なんか見慣れたものなのに、助手の出血とか怪我とかだけはいつまでたっても慣れない。自分の出血なんか全然平気なのに。
おまけに今朝助手が「雑巾捨てちゃったから違うの持っていく」と言うので「なんで捨てたの?」と聞いたら「血で汚れちゃったから」だって。うわー。もう朝からまた気持ち悪くなってしまった。
幸い骨も神経にも問題はないそうで、本人も指を使っているのでたいして痛くはないようだが、私よりも下手くそな縫合に腹立たしさをおぼえてしまった。動くところなんだから4針縫って欲しかった、とかね。
驚いたのは、本人がまったく冷静だったこと。おろおろするママを尻目に、助手は確実に育っている。

サクラサク

獣医腫瘍認定医Ⅱ種試験に合格しました!!!!!!!!
あー、すっきりした!
次は来年のⅠ種認定医1次試験に向けて頑張ります。

Sunday, March 12, 2006

骨肉腫のはなし

腫瘍の治療をするとき、どうしても断脚を余儀なくされることもある。もちろん、腫瘍のできているところだけを切除できればよいのだが、あまりにもそれが悪性だった場合、その腫瘍が足首にできていても、股関節あるいは肩関節のところから断脚しなければならない。そんなに大きく切らずに肘や大腿で切る一般獣医師もいるが、それは使えない足の側におもりをつけておくのと同じで、結局動物の負担になるだけだ。
骨肉腫は悪性として有名な腫瘍だが、犬では大型犬の若い犬あるいは中高齢で発生が多い。ゴールデン、ピレネー、ラブラドールがこの1年間に大学病院で断脚をうけている。断脚に踏み切れず無治療のまま帰宅した飼い主もいた。
もしも骨肉腫を放置したらどうなるか。骨がスカスカになり病的骨折をおこす可能性もあるし、余命は長くても100日程度といわれている。骨肉腫は転移性が強いのであっという間に肺に飛んだり、他の骨にとんだりする。これを抗がん剤だけで治すことなど不可能である。だいたい、耐え難い苦痛に犬が苦しむのを間近で見なければならない。
では、勇気をもって断脚をしたとしても、次には抗がん剤を、ということになると、やっぱりしり込みしてしまう飼い主がいる。抗がん剤と聞くと、人間のように毛がすべて抜けてしまったり吐き気などで苦しんだり、というイメージが強いのだろう。特に、家族の中にがんを患った人がいると拒否をする率が高くなる。しかし、文献上のデータでは骨肉腫で断脚した場合、それでも余命は160日前後なのだ。手術をしてもたった60日しか伸びない。
それでは、抗がん剤を使ったらどうなるか。さまざまな抗がん剤でのデータが報告されているが、抗がん剤によっては1年前後の生存も可能となる。100日が160日、300日と伸びていくなら、どうだろう。心配される抗がん剤の副作用も、実は動物ではそれほど多くない。特に、抗がん剤の使用に慣れている先生ならば副作用の可能性を考慮してくれるので安心。
骨肉腫は痛い。大型犬では痛いその足の重さもかなりあるので、他の足にも負担がかかる。そんなものを引きずっての100日にどんな価値があるのだろう。足を切ったらかわいそうかもしれないけど、そんな足と耐え難い苦痛をもって生きていく100日はもっと可哀想だ。足が3本になっても歩くことはできる。そりゃーフライングディスクとかは無理だけど、お散歩なら大丈夫。この間きたセッターは飼い主を引っ張って歩いていた。それが300日になったところで、大した長さではないと思うなかれ。痛みがなくなり食欲も戻り、お散歩に行ける300日はずっと楽しいはずだ。100日の3倍以上の価値があると思う。中には1年以上生存している犬だっている。3本足では犬ではない?ではあなたの母親が骨肉腫で足を切ったら人間ではない?
獣医師の仕事は、治療行為だけでなく、こういったことを飼い主に正しく理解してもらうことにもある。たとえどんなに優秀な獣医師でも、飼い主が治療に対して理解を示してくれなければ何も治療できない。「あなたの犬はガンです。」と宣告された飼い主の多くは動揺し、治療についても正しく理解しにくくなることが多い。
2週間前、ピレネー犬が大学で断脚手術を受けた。手術前、初めての診察のとき、お母さんは動揺し、家族と相談しようにも話の内容を理解しているとはとても思えないくらい、ただ骨肉腫と診断されたことを嘆くこととそれを早期診断できなかったかかりつけの先生への非難をするのがせいいっぱいだった。これでは家族で手術の相談をしようにも誰も正しく理解できず手術を受けない可能性が高い。骨肉腫をくっつけたまま生きていくのと断脚をするのとでは、たいてい断脚のほうがかわいそうと思えてしまうから。だから、大学病院の待合室で、もう一度紙に書きながら説明をした。その紙を持ってお母さんは家に帰り、翌日の午前中、手術を受ける意思を連絡してきた。
反対に、骨肉腫の診断を受けながらどうしても断脚に踏み切れなかった飼い主もいた。お父さんは骨肉腫という腫瘍について納得をし断脚手術を受ける意思があったのだが、お母さんは骨肉腫ということは理解しても、どうしても断脚することに対して納得ができなかった。びっこはひいているけど、まだ歩けるのに何で断脚を、ということを言っていた。
手術を受けるのには勇気が必要だ。その勇気が犬を救うことに、私は感謝したい。そしてその勇気にこたえられる獣医師になりたい。

Monday, March 06, 2006

せっかく新しいPCを買ったのにブログが表示されず、投稿をせずにいてしまった。反省。
もう3月になってしまったというのに開業準備らしいことはほとんどできず、少々あせりを感じるが、年度末は年度末のやることがある。
年度が終わるのを待たずしてコタニが辞めてしまった。決して優秀とは言いがたいが、彼女なりに頑張ってはいたし出来の悪い子ほど可愛いというとおり、できないなりに面倒を見てやろうと思わずにはいられなかった。初めのほうこそ学生のりの抜けない彼女にいらいらとさせられたものであるが、そこが自分が年をとった証拠であろう。彼女とは週1回しか仕事をするチャンスがなかったので、それだけで自分の教えられるものをみな教えてあげることができなかった、特に避妊手術や去勢手術をさせてあげることができなかったのは残念である。1年目の獣医師に手術をまったくさせない病院も少なくないが、その二つができるかできないかというのは一つの目安でもある。せめてそれくらいできるように、それが彼女を嫁に出すかのような私の心境である。もしも、自分が開業していたのなら実習に来させるくらいしたかもしれない。多分来させたと思う。
もう、直接指導することはないかもしれない。頑張れコタニ。いつか臨床の楽しさを知り、どこかの学会でばったり会うのを楽しみにしている。と思っていたら、タイ料理のお店に連れて行ってくださいだって。はいはい、小学生時代バンコクで暮らしたことのある彼女は、どうにも切れない縁らしい。