Sunday, June 12, 2005

歯科通い

今日歯医者に行った。何年ぶりかの歯科医院だ。高校時代からのかかりつけだった実家の近くの歯科医院は、数年前に院長先生が亡くなられてしまったので、父が通院している本厚木駅前の歯科医院に行った。
休みが週1回の私にとって、日曜日に診療している歯科医院はありがたい。どんな病院かというのも大事だが、とにかく通えなくては話にならない。職場の近くで探そうと思ったが、仕事の後から行くと帰宅が遅くなる。やはり休みをつぶして通わなくてはならない。
その歯科医院は駅前のファッションビルに入っていて、なんとなくそういうのはいかがわしい?かと思っていたのだが、よく考えれば駅前のビルにテナントでは入れるということは、高額な家賃をあっさりと払えるということだ。つまりそれだけ集客数(カルテ数)も多い。以前は個人歯科医だったが、今ではグループとなって、8軒くらい神奈川県内に診療所があるらしい。
午前中、甥っ子の頭痛騒ぎで動けなかったので予約なしに歯科医院のドアをくぐった。少々お待ちくださいと言われたけれど、10分も待たずに名前を呼ばれた。街の歯科医院よりも広いフロアの中をいくつかのパートにわけている。歯科医院の圧迫感もないし、となりの患者から見られる心配もない。そのかわり、ついたて程度で仕切っているので簡易的な感じがする。よい、けど微妙。
比較的若い先生が来て、まず私の口の中の状態を記録していく。次に全体のレントゲンを撮影するために別室に行く。鉛の入った防護エプロンを背中から着せられる。エプロンはなじみのあるものだが、背中から着る意味があるのかよー、と内心叫ぶ。これでは腹部をまったく防護していない。
もう一度先ほどの席に戻って待っていると、今度は別の先生がやってきた。受付のところにあった、今日の勤務医の一番上に書いてあった名前だ。物腰柔らかで、ここの院長だろうか?先生は私の口を拝見させていただきますといって、開けさせると、なるほど、とか言いながらチェックをしていく。歯医者の嫌なところ、その1。自分からは患部が見えない。先生を疑うわけではないが、自分も見たい。
一通り見終わると、先生はレントゲンを見ながらお話しましょうといって、少し席を離れた。そして歯科衛生士のお姉さんがレントゲン写真をセットすると、先生が再びやってきて、この歯は歯根のあたりまで虫歯になっています、とかこの歯は神経の治療が必要です、とか説明をしてくれる。同じ歯でも、犬猫とはだいぶ違うなあ、なんてことを一瞬考えたが自分のレントゲン写真など、見るチャンスはそうそうないので、よく見る。そしてへこむ。昔の治療をしたところが、いくつか相当ひどい状態になっている。当分歯科通いは続きそうだ。
ちなみに、犬猫はほとんど虫歯にならない。歯を失なう原因のほとんどが歯周病だ。歯石のかげで歯周病が進行して、いつの間にか歯根をぐらりと揺らしてしまう。「このこ、口が臭いのよね」とか「歯石がついてるのよね」というのはご用心だ。猫は歯根が出てきて溶け出す、という奇妙な病気があるのも知られている。猫の吸収性病巣というのだが、痛みが強くてごはんも食べられなくなる。
最近犬の歯石除去を麻酔なしで、というところが雑誌に掲載されていたけれど、獣医学的に見ると決してカンペキではない。大体口の中を麻酔なしでガリガリされておとなしくしているいぬがどれくらいいるだろうか。それに歯の表面についている大きな歯石だけを除去することしかできないし、一歩間違えたら歯の表面を傷つけてしまう。犬の歯のエナメル質は人間のものよりもずっと薄いので、もし傷がついてしまったらそこから細菌が歯髄(歯の中心部)まで到達し、そこから歯槽膿漏、歯根膿瘍となって膿んでしまう可能性だってあるのだ。
動物病院での歯石除去は全身麻酔が必要だけれど、歯石を超音波装置、つまり人間で使用されているのと同等の歯石除去の機械を使ってきれいにして、エナメル質の表面の細かい傷を研磨剤で滑らかにすることで、今後歯石が付着するのをできるだけ防ぐようにしている。もちろん、その後自宅で最低1日おきに歯をキレイにすればさらによい。
たかが歯石と侮るなかれ。歯周病などで食べにくいのは、結構つらいと思う。かくいう私も満足に噛めないので食べている最中に食欲が減退してしまう。痩せるかも?不健康だな。

Saturday, June 11, 2005

準備ギリギリ悪いくせ

先週自分の学会発表ネタの抄録が一発OK(ちょっと言葉が悪い)になったのに続き、昨日は私が今年1年面倒をみる新人の先生の学会ネタにGOサインが出た。
学会発表のネタは何でもよいというわけではない。珍しいとか治療が相当うまくいったとか、新しい試みをしたとか、とにかく発表に値するものでなければならない。そのうえ、その症例をどういうふうに発表するかということも大事だ。何よりも、この症例を発表したい、ということになったら、その症例のプロフィールから治療の経過、現在の状態などについて結構しっかりと把握しておかなければならない。
そういうことは、自分がいま2年目だからわかることであって、新人のタカコちゃんにはわからないので秋の発表を狙っているけれど、今から準備段階に入っている。何週間か前から、その症例のカルテのコピーをとり、経過の一覧表を作らせ、足りないところを指摘して、昨日の昼、何とかボスの承諾を得た。
まだ当分時間があるので、もう少し丁寧に経過を追うことと、参考文献の検索や収集をさせることにした。あれもこれもやってやるものではないので、文献の探し方や知恵を授け、あとは自分で頑張ってもらう。
肝心の自分の方はというと、あと少しで抄録の提出ができそうである。デジタルデータをメールに添付して送り、同時にプリントアウトしたものをFAXで送ることになっている。世の中便利になったものだと、つくづく感心する。
私が所属する大学病院では、年1回以上の学会発表が義務付けられている。これをやらないと、研修修了証がもらえない。おかげで勉強するくせというか、何かにつけ文献を検索するくせがついた。しかし、それをいちいちプリントアウトしているので資料の量が膨大になっている。
話を元に戻すと、来週抄録を送れば、次はスライド作成だ。8月中旬までに作り上げること。時間がある。でもそれがちょっと私にはよくない。油断してしまいそう。新人のことは早め早めにやらせているのにね。どうして自分のことはいつもギリギリなんだろう。

Tuesday, June 07, 2005

今日もご飯は美味しかったか、というと、味覚は美味しいというのだが歯が痛いのでなんとなく食べる気にならない。空腹は感じるのだけれど、歯をかばってゆっくり噛んでいると、だんだん食べる気がうせていく。2週間も前から歯科に行かなくてはと思っているのになかなか時間がとれない。自分で自分の治療をしてしまいたいところだけど、あいにく歯科治療をするのに十分な道具も機械もそろっていない。獣医療の世界では、歯科はまだまだ専門性の高い分野だ。需要も少ないので、治療に必要な機械はとても高価だし、その知識を持っていても技術を磨く場所がない。そういうわけで、もう2週間も、奥歯の痛みとつきあっているのだ。
1週間ほど前から食欲と元気がほとんどないトトちゃんが今日も来た。通院で点滴を受けている。担当は他の先生だし、本院の院長先生がアドバイスされているので、私が関わることはほとんどない。連日の通院点滴と血液検査、しかし、いっこうに症状がよくなる兆しが見られない。トトちゃんはケージの中でやる気のない瞳をこちらに向けて、だるそうに横になっている。
トトちゃんはコーギーなので同じ体重の犬に比べて手足が短く、採血や点滴の針を留置するのが一苦労だ。とうとう今日は採血できるところがない、という事態に陥った。今日採血をしようとしていた先生は、手足がダメなら首から、ということで一生懸命血管を捜すのだが、なかなか見つからない。首の皮膚がたるんで血管が浮き出るのを邪魔するのだ。最後は年の功、私がかわって採血をしたが、手足の血管は確かにもう採血をする余裕はない。点滴を優先させるので、採血は手足以外から、ということになる。点滴の針だって、もう入るところはないように見える。あと残されているのは手首のすぐうえくらいだろうか。血管は十分浮き出るけれど、歩くのには邪魔な場所だ。
毎日毎日、ただただだるそうに寝ながら点滴を受けているトトちゃんを見ているスタッフも、切なくて仕方がない。トトちゃんの診断も、決して手をこまねいているわけではなく、数日前に行ったホルモン検査の結果が検査センターから届くのを待っているのだ。明日には届くだろうか。みんなが待っている。

携帯からブログが書けるらしいので、実験。
見えるかな?

Monday, June 06, 2005

ハルちゃんと「めで鯛パン」

先週必死になって書いていた抄録は、最低3回の赤ペン添削を覚悟していたにもかかわらず、一度でOKが出てしまった。昨年、先輩と一緒に雁首そろえて何度も足を運んだのが嘘のようである。ここまでくると、拍子抜け以外の何者でもない。そうはいっても、まだ参考文献だとか共同演者とか細かい直しが必要なのであるが、締め切りは15日、余裕かまして油断しそうで怖い。それでも抄録のOKさえ出てしまえば心は軽やか、空は青空。つかの間ではあるが、無敵な気分だ。つくづく脳天気?
今日、ゴールデンレトリバーのハルちゃんのお母さんがご挨拶に見えた。ハルちゃんは白血病になってしまい、お父さんがネットで専門医を探し出して、海に近いその病院で治療を受けている。(その専門医も腫瘍科の先輩だけど。)最近抗がん治療が一時休止となったため、そのお祝いで鯛をかたどったパンを手作りされ、「めでたい」のおすそわけをしてくださったのだ。数日前、爪切りと足の裏のバリカンかけに来たハルちゃんのお母さんは次の私の出勤日を確認されていたらしい。実を言うと、私がハルちゃんの治療にあたったのはほんの数回しかない。ハルちゃんの歯が欠けてしまい、初めは病院で治療を希望されていたのだが、歯の欠けた部分が大きく、そのままにしておくと歯髄炎になりかねないと判断した私が大学病院の歯科を受診するようにすすめ、予約をとった、だいたいそれくらいのものであったはずだ。
ハルちゃんのお母さんが見えたとき、スタッフが声をかけてくれたので受付まで出てみると、ハルちゃんのお母さんはハルちゃんとよく似た優しい笑顔でそこに立っていた。ハルちゃんの様子を先輩に会うたびに聞いていたので、経過良好ということは私も知っていた。ハルちゃんは食欲もあって元気で、ちょっと顔の毛が薄くなってしまったけれど、ちょっと見る分には白血病なんて大病を患っているようには見えないそうだ。主治医である先輩も「調子がいいね」と話しているそうだが、お母さんはどうしても不安でたまらないらしい。
白血病は確かに大病だろう。私の可愛がっているテリー君のリンパ腫だって大病だ。どちらもいずれは死に至る病だ。でも、この病気のちょっとラッキーなところは、比較的抗がん剤に対する反応がよく(たまに抗がん剤の効きが悪いのもある)、よりよい時間を少しでも長く過ごせる可能性があるところだ。現に、今日会ったテリー君は昨年7月にリンパ腫と診断されてから抗がん剤の治療をしているけれど、副作用もなく、発病した当時より5キロも太り、ご飯もよく食べほとんど日常生活に問題はない。ただ毎週病院に通わなくてはならないけれど、待合室でも誰にもリンパ腫だなんて気づかれない。元気よく尻尾をふりふり診察室から出てくるので、「何の病気ですか」と誰かに聞かれてお姉さんが恥ずかしそうに「リンパ腫なんです」と答えている。
死なない犬はいない。死なない猫もいない。生まれた命はいつか死ぬ。それならば、1日1日が少しでもよい1日になるように、私はそう思う。朝のごはんは美味しかったですか?どこか痛いところはないですか?夜はちゃんと眠れていますか?自分を思い出してくれる友達はいますか?人も犬も同じだ。がんになって可哀想、と思うかもしれない。でも、犬にとって「がん」だという意識はあまりないだろう。ご飯が食べられないとか、動くとしんどいとか、痛くて眠れないとか、そっちのほうが「がん」だということよりも、犬にとっては重要なことだ。だから、リンパ腫や白血病のような、大病を患った犬にとっては、治らない病気の行く末を案じて飼い主が暗い顔をしているよりも、1日1日が幸せに暮らせるのが一番だと思う。ごはんが美味しい、痛くない、寂しくない。
ハルちゃんのお母さんは、抗がん剤は一時休止となってもいつか再燃(さいねん、と読みます。また病気がぶり返すこと)するのは確実ですと、主治医から言われているので、経過良好と言われても信じられないらしい。ハルちゃんは白血病にかかってしまったけれど、いい主治医の先生にめぐり合えて、抗がん剤もよく効いて、それが休止できるくらいまでこられて、よかったですねって言ったら「本当にそう思いますか?」とお母さんの顔がちょっと明るくなった。そうですよ、ごはんも美味しく食べているでしょう?ちょっとお顔の毛が抜けてしまったけれど、今は痛いところもないでしょう?長期入院もしないし、相手は白血病ですからね、こんなに状態がいいのはすごいことですよ。そう返したら「やっぱり、そうなんですか、よかった」と言ってお母さんは帰って行った。頑張ってください、ハルちゃんのお母さん。犬もつらいけど、そばで支えている人間も相当つらい。
それを見守る獣医師も、病気の結末を知っているだけに、実は結構つらいのだが医者が泣きべそかいたら話にならないから、絶対最後まで泣かない。ドラマで泣いちゃう私には結構至難の業だ。

今日もご飯は美味しいか?今日も痛いところはないか?今日も誰かと笑いながら話をしたか?単細胞の私の幸せの基準は、本当に単純だ。もしも、嫌なことがあったら、おいしいお茶を入れてみんなで休憩しちゃおう。そういえば、この間ウィンザーホテルのカフェで朝ごはん食べましたね。ソイ12のcrepes & companyも犬連れで行きましたね。でもトンローのスターバックスは暑かった。母を連れて行った香港のビクトリアピークのカフェが、ちょっと素敵だったことに母がすごく感動したっけ。
明日もごはんが美味しい1日でありますように。明日は大田区、フィラリア予防はそろそろ終盤?

Wednesday, June 01, 2005

真夜中の執筆作業

こんな夜中にまだ起きている。9月に学会発表する予定なので、その抄録というものを書いている。この原稿が学会のプロシーディングという本になり記録となるわけで、その書き方もいちいち指定されていることがある。それだけでもややこしいのに、今回の私は9頭の猫のリンパ腫について比較検討しようというのだから、読まなければならないカルテの数も9倍だ。
もっと早くから準備を始めていたのに、こんな夜中に書いているのは、やればやるほどまとまりがつかなくなっているからだ。私って文才がない?いやいや、文才の問題ではなく、これはテクニックというものだと先輩方は口をそろえて言う。じゃあテクニック不足か、とほほ。
獣医を10年以上やっているからといって学会発表のテクニックがつくわけではなく、これは今まで発表をこなしている数にもよるのだろう。これを書き上げたら次はそれをスライドにすることと英語の文献地獄だ。今年のあたしには電子辞書という強い味方がついているもんね。軽量で小型、持ち運びに便利だからどこへでも持っていけていつでも使える。
それにして、この学会発表の原稿やらスライドやらを準備するために、最近の私のかばんの重さはいつもの倍以上になってしまった。だから、家に帰るとかばんをさげている左肩には赤い痕がついてしまっている。そろそろ限界、旅行にでも行くようなキャリーバッグとかピギーバッグとかそんな名前のガラガラ車輪つきにしなくてはなるまい。どんな少しの時間でも使えるように、そんな少しの時間に備えて今日も大荷物で私は行くだろう。ああ、あと1時間くらいやって寝よう。明日の手術は数が多い上に、大掛かりなものが多いのだった。肺腫瘍の手術の担当藩になったら、明日は泊まりで術後管理だ。